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歴史映画ランド

『オッペンハイマー』鑑賞 原爆を作った天才科学者の栄光と罪悪感そして挫折

原爆を作った天才科学者の人物像に迫る

クリストファー・ノーラン監督作

『オッペンハイマー』

観る前にはためらいもあったのですが、とにかく一度は観てみないとなんとも言えないと思って、

IMAX で鑑賞してきました。

観る前には、オッペンハイマーを戦争の英雄として称賛するような視点ではないかと少し恐れていたのですが、

原爆を使った勝利を讃えるよりもむしろ、非人道的な兵器を使った罪悪感などが描かれていて、

やはり一度は見ておいてよかった映画です。

その内容について、自分なりに考えをまとめてみました。

『オッペンハイマー』鑑賞 原爆を作った天才科学者の栄光と良心の呵責のせめぎ合い

ということで、ついに見てきました

クリストファー・ノーラン監督作

『オッペンハイマー』

アメリカをはじめ世界では2023年夏に公開されていたのですが、

原爆を扱っているという日本ではセンシティブな内容から、当初は公開予定も立たず、

ようやく半年遅れの2024年3月29日からの公開となりました。

日本でもノーラン監督作品の人気は高く、内容的に議論はあっても公開を歓迎する声もあり、

個人的にも公開の決断は良かったと思います。

まずは観てないことにはどうなのか判断できないし、ましてや文句も言えないので、

観た上で日本からの立場や意見をはっきりさせるのは大事なことではないかと考えました。

ですので、いったいどんなふうにこの原爆の開発者を描いているのか、実際に自分の目で目撃してきたわけですが、

3時間という長編に多くの情報が詰め込まれていて、1回観ただけでは正直全てを理解できたわけではありません。

ですが、多くのことを考えさせられる力作でした。

ノーラン監督こだわりのIMAX映像も大迫力で、何年か経って振り返る時にこの作品から変わったと言われるような、

映画史に刻まれる一つのマイルストーンのような映画だったと思います。

【本予告】『オッペンハイマー』3月29日(金)、全国ロードショー
『オッペンハイマー』予告編

『オッペンハイマー』キャスト

それではまず初めに、この映画

『オッペンハイマー』

の主なキャストをご紹介していきたいと思います。

この映画は、事前に知っていた以上に有名俳優が続々とちょい役でも登場してくる、

「え?この人も出ていたの?」と驚くようなオールスターキャストになっていました!

主人公のオッペンハイマーは キリアン・マーフィー

その妻のキティ・オッペンハイマーは エミリー・ブラント

オッペンハイマーを「マンハッタン計画」に引き込む将校レズリー・グローヴスには マット・デイモン

水爆開発をめぐってオッペンハイマーと対立するルイス・ストローズには ロバート・ダウニー・Jr.

オッペンハイマーの元恋人ジーン・タトロックには フローレンス・ピュー

というメインの登場人物たちを中心に、その他

実験物理学者アーネスト・ローレンスには ジョシュ・ハートネット

あのアルバート・アインシュタインには トム・コンティ

理論物理学者ニールス・ボーアには ケネス・ブラナー

科学技術者ヴァネヴァー・ブッシュには マシュー・モディーン

グローヴスの部下ケネス・ニコルスには デイン・デハーン

原子物理学者デヴィッド・L・ヒルには ラミ・マレック

そして原爆投下を決めたトルーマン大統領には ゲイリー・オールドマン

などなど、主役級のキャストがずらりで、画面のどこを見てもよく知った顔が出てくるような、

まさにハリウッド・オールスター状態でした。

みんな、出演時間が少なくとも、ノーラン監督作品ならと出ているのは、映画界でのノーラン監督の評価の高さがよく分かりますね。

『オッペンハイマー』スタッフ

そして、この映画

『オッペンハイマー』

のスタッフたちは、いつもの「ノーラン組」と呼べるようなスタッフが勢ぞろい。

クリストファー・ノーラン監督自身が脚本も書き、

奥さんのエマ・トーマスと一緒にプロデューサーも兼務。

そしてもはやノーラン作品には欠かせない撮影監督  ホイテ・ヴァン・ホイテマ

音楽のルドウィグ・ゴランソンは『TENET』に続いてのノーラン作品登板。

編集 ジェニファー・レイムも『TENET』に続いてのノーラン作品登板。

この3名とも監督とともにアカデミー賞受賞となり、まさに一緒にノーラン作品を作り上げた腕利きぞろいのスタッフです。

*この映画『オッペンハイマー』はこのスタッフ部門も合わせてアカデミー賞で最多7部門を制覇しています。

『オッペンハイマー』のあらすじ

それではこの映画

『オッペンハイマー』

のあらすじもご紹介します。

この映画の原作は、カイ・バードとマーティン・J・シャーウィンによる伝記

『オッペンハイマー』

この原作本は、オッペンハイマーの青年時代から、原爆投下後の核兵器の規制に動く晩年までを取材した、

上中下3巻の大作です。

この映画では、オッペンハイマーの青年時代から晩年までをたどりながら、

1954年の「オッペンハイマー事件」でソ連のスパイ疑惑を受けて聴聞会で追及される部分と、

1959年のオッペンハイマー事件の首謀者ストローズの公聴会の部分が、

ところどころにモノクロで挿入されてくるという凝った構成です。

そのため難解と言われることもあるのですが、

映画を観た感想としては正直ほかのノーラン監督作品よりはフォローしやすかったです。

日本人としては、原爆作成と投下の部分が一番気になるところですが、

こういう映画構成ですので、オッペンハイマーが「マンハッタン計画」で原爆作成に携わる部分は映画全体の3分の1くらいといったところでしょうか。

あとは、オッペンハイマーの青年時代や、女性関係など私生活のパートも多く、

天才物理学者ながらどこか不安定で確固とした信念も持たないようなオッペンハイマーの人物像を細かく描きだしています。

ノーラン作品では『TENET』などよりはフォローしやすかったです

『オッペンハイマー』を観たうえで

さてそれでは、この映画

『オッペンハイマー』

を観て、1回観ただけでは正直全てを理解できたわけではありませんが、

3時間という長編に多くの情報が詰め込まれていたので、

自分なりに多くのことを考えさせられました。

ここでは、そんな自分なりの感想をまとめていきたいと思います。

連合国側視点で最大限込められた悔恨

この映画を実際に観る前には、

先に公開されていたアメリカでは大ヒットということで、

ひょっとしたら原爆利用の正当性を主張していたり、

オッペンハイマーを「戦争を集結させた英雄」のように賛美している部分があるのでは無いのかな、

という心配があったのですが、

実際に観てみると、

そのように原爆使用を正当化するような部分はほとんどありませんでした

むしろ、「マンハッタン計画」が始まる段階で、

科学者の一人が「理論物理学300年の歴史の成果が大量破壊兵器なのか」と疑問を呈していたり、

「ナチスより先に核兵器を持たなくてはいけない」と言って計画がスタートしたのに、

ナチスが敗れたあとも原爆計画を止められずに、その代わりとして日本を標的にしたこと、

科学者たちからも原爆の使用に反対する声もあったのに、結局二発とも使われたこと、

20万を超える膨大な死傷者が出て、そのほとんどが一般市民であったこと、

そして原爆の使用後に、オッペンハイマーが

「自分の手は血塗られているように感じる」

と言うシーンがあったりと、

この映画が英米国籍のノーラン監督によって、アメリカで作られたことを考えると、

連合国側の視点で作られた映画としては、

原爆の使用について最大限の悔恨の念を込めた

と感じられました。

もちろん、映画の中では原爆投下の成功を祝うシーンも出てきて、

おびただしい死傷者が出たのに笑顔で大喜びしてる様子は思わず涙が出ました。

これは広島・長崎の方々から見たらショッキングだと思いますし、実際に不快に感じる方も多いのではないのでしょうか。

しかし、その歓喜の中で、オッペンハイマーは強烈な罪悪感に見舞われ始め、

原爆被害の幻想が見えてくるシーンもあったので、

やはり勝利を讃えるよりは原爆の使用に人道的な見地からも疑問を呈している印象を受けました。

オッペンハイマーを演じたキリアン・マーフィーも、原爆投下後の良心の呵責と葛藤を上手く表現していましたし、

全体として、人類が作り出してしまった核兵器の是非を考えさせる作品になっていたように思います。

これまでアメリカ側としては「戦争の集結のために原爆が必要だった」「原爆が戦争を終わらせた」という、正当化するスタンスをずっと取っていただけに、

映画の中で原爆投下の前に「日本はもう戦争を続けることはできない」「降伏は時間の問題だ」というところまで踏み込んで描いたのは、

私が考える範囲ではこれまでの映画では無かったことのように思うので、画期的な作品だったと言えるのでは無いでしょうか。

そして、このように原爆の使用について批判的な部分も多く描いていながら、

アメリカで大ヒットしたと言うのは、少し前では考えられないことだったかもしれません。

アメリカでも核兵器の使用について、受け止め方が変わる転換点になるような作品なのではないか、と感じられました。

広島・長崎の投下後の描写カットの是非は

そして、この映画

『オッペンハイマー』

では、原爆を作った科学者が主人公のドラマながら、

原爆投下後の広島・長崎の様子の描写がゼロ

というのも批判されていました。

確かに、原爆の投下後について、私たち日本人はある程度の知識があるものの、

アメリカや海外の方達では知らない人も多いかと思われますので、

そういう人たちにとっては「被害の矮小化」となって、なんか強力な爆弾だった、くらいの認識しか持てないおそれもあるかと思います。

なぜ原爆投下後の広島・長崎の様子を映さなかったか、と言う点についてノーラン監督は、

この映画はオッペンハイマーの視点で描かれているので、

実際にオッペンハイマーが目にしたもの以上のものは描けないというスタンスだったようです。

たしかに映画の中では、原爆投下後のニュース映像をオッペンハイマーが見るシーンがあるのですが、

あまりの惨状にオッペンハイマーは目をそらしてしまう、という表現になっていました。

個人的には、ノーラン監督は映画の中ではこれ以上の表現は難しかったかと思います。

映画の中であまりにむごたらしい映像を流してしまうと、上映に規制がかかる恐れがあったり、

あまり原爆の非人道的な側面ばかり取り上げてしまうと、アメリカの観衆にはそっぽを向かれてしまう可能性もあったと思うのです。

映画は興行成績も大事ですし、このように製作費の膨大な大作映画だと、その回収もしなくてはなりません。

そう言った点も考えると、この映画の中では精一杯の表現だったんだろうなと察します。

また、ノーラン監督によると、この映画の海外版ブルーレイには、

姉妹編となるドキュメンタリー

「To End All War: Oppenheimer and the Atomic Bomb」

を収録していて、広島と長崎への原爆投下後の様子はこちらで詳しく取り上げるとのことです。

ここらへんがノーラン監督の素晴らしいバランス感覚で、

映画館で多数の観客に見せる場合にはマイルドな表現にして、詳しく知りたい方はブルーレイをどうぞ、

ということで、映画の興行には最大限影響の出ない形にしたようです。

いずれにしても、アメリカや連合国側の国で大々的に封切りする映画なのですから、

映画本編の中では現在の表現が精一杯だったんだろうなと理解できました。

放射能被害の問題はカット?

しかし、この映画の中で一つ引っかかることがあるのですが・・・

それは、

映画の中で放射能の被害について全く触れられて無かったような…?

セリフがものすごく多いので、ひょっとしたら字幕で削られてただけなのかもしれませんが・・・?

にしても、実験場のロスアラモスでも広島・長崎でも、

原爆投下後には放射能の影響が大きかったのに、全くそれを議論する様子が見えない気がしました。

オッペンハイマーたち「マンハッタン計画」に参加したのは理論物理学者たちだから、

放射能被害については無知だったのでしょうか?

しかし私たち日本人はある程度皆んな、原爆投下後の被曝の恐ろしさを見知ってはいるけど、

連合国側視点では無かったことにされてるの?

その点については、どの程度オッペンハイマーたちの認識があったのか、

疑問が残るところになりました。

止まるチャンスは何度もあったのに、突き進んだ愚かさ

そして、この映画

『オッペンハイマー』

では、

天才科学者オッペンハイマーの精神的弱さ

についても、かなりの時間をかけて描写していたことが印象的でした。

学生時代には精神が不安定になってリンゴに毒を盛ったり、

多くの不倫関係を持つなど、とても立派では無い人物像が描かれていきます。

「原爆で早く戦争を終結させた英雄」みたいな描き方とは真逆ですね。

そんな不安定さを持つ欠陥だらけの人物が、人類を滅ぼしかねない兵器を作り出してしまった・・・

それを周囲も止められなかった、というのも映画の中では描き出されていて、結局のところ、

人間の愚かさというのを強く感じる映画

だったと感じます。

かなり人格的に問題のあるオッペンハイマーにとって、

原爆の製造は自己実現でもあって、もう行き着くところにいくまでやめられなかった。

原爆の使用に反対する科学者たちの声もあったのに、それをあえて無視した。

もう日本は戦争を続けられない状態なのも分かっていたのに、止められなかった。

実際に使用されれば大変なことになるのは分かっているのに、

2年間の努力の成果を確認したかった。

そうして人類が手を出すべきでは無い悪魔的兵器は完成し、使われてしまった・・・

後からいくら後悔しても、水爆に反対しても、そのような大量破壊兵器を使ってしまった事実は変えられない。

そういうどうにもならない人間の愚かさについて、考えさせられる映画でした。

この後、現在の核を超えるさらに強力な兵器がもし現れたら?

私たち人類はこの原爆から学んで、踏みとどまることができるのか、

それとも滅亡まで突き進むのか?!

この映画はそういうところまで警告しているように思えました。

ですので、この映画が世界的にヒットとなったのは、これから人類全体が多くのことを考える、いいきっかけになったのでは無いかと今は考えています。

IMAX フィルムで撮影された大作

そんなふうに、数々の大きな批判や警告を与えている映画

『オッペンハイマー』

ですが、3時間もの長尺の映画ながら、

世界各国で大ヒットしました。

それはひとえに、これだけの重いテーマを

スペクタクルな映像でエンターテイメント化

というノーラン監督の手法によるところが大きいと思います。

この映画は、撮影監督のホイテ・ヴァン・ホイテマ

IMAX 65mmフィルムカメラを駆使して撮影

モノクロ版も使用するのは世界初の試みだということです。

ですので、この映画はできるだけ IMAXの大画面で見た方が、そもそもの監督の意図に沿った形で鑑賞することができます。

IMAX の大画面できのこ雲を見た時には、絶望的な気持ちになりました・・・

もしこれが映画じゃなくて、実際に自分の近くで炸裂していたら・・・

と思うと、本当にゾッとする瞬間でした。

音楽も、IMAXの音響の利点を計算しているようで、身体中に響くような重低音が効果的に使われていましたので、

映像と音響の相乗効果は劇場で実際に体験しないと得られないものかと思います。

しかし、テーマがテーマだけに、こうして劇場でエンターテイメントとして消費することにためらいもあるのですが・・・

とはいえ、映画全体のメッセージが明確で、核使用について大きな問題提起をしているので、

世界のより多くの人々にエンタメの入り口から入って、核使用についていろいろ議論する出口に行ってもらえればそれで十分かというふうに個人的には思います。

『オッペンハイマー』転換点となる映画かもしれない

ということで、

原爆を作った天才科学者の人物像に迫る

クリストファー・ノーラン監督作

『オッペンハイマー』

IMAX で鑑賞したのですが、

原爆を使った勝利を讃えるよりもむしろ、非人道的な兵器を使った罪悪感などが描かれていて、

連合国側の視点としては、最大限原爆使用について批判的に表現していたように思えました。

そして核という、人類全体を滅ぼしうる兵器を作り出してしまったことへの問題提起は、

連合国側の人が作った作品としてはやはり画期的で、

これからの作品の転換点となるような作品になったのではないかと思います。

もちろん日本人としては不快に感じる描写もあるのですが、

人類全体への脅威となった核について、世界の人たちと議論するためにも観ておいてよかったと思います。

もし気になっていて、でもまだ観ていない方がいたら、一度は目撃した上で

問題点や、批判、そして受け入れられるところなど、多くの人たちで話し合ってみて欲しい、

そう思える作品でした。

  • この記事を書いた人

イレーネ@映画&海外ドラマ

映画&海外ドラマ大好きです。好きなジャンルはファンタジー・SF・歴史もの・コメディなどなどいろいろ見ます。 *映画館ではIMAX推し *サブスク廃人進行中 → Netflix, Disney +, アマプラ, U-NEXT

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